ハダカデバネズミの生き方に学ぶ

自然の知恵を学び、生かそうとするなら、すでに生物が行っている智慧に倣うことが手っ取り早く、生体模倣-バイオミミックリーの考え方があります。その中でも、強欲な人間にとってはなんとしても手に入れたい能力の多くをハダカデバネズミは持っています。

その並外れた特徴は

1)低酸素耐性 息を止めててもすぐ死なない

2)疼痛耐性 -痛みに強い

3)長寿 

4)老化しない

5)がんにならない

6)接触阻害に高感受性。 密集することに敏感

正常な細胞には、適切な組織の増殖の調節に役立つ「接触阻害」という現象があります。 隣接する細胞とのコンタクトにより、増殖を停止する(秩序を維持)タイミングを知っ ています。癌細胞は、本来の接触阻害の性質を失っていることが、よく知られています。 隣接する細胞同士が互いに接触しても、単層培養で分裂し続けます。Seluanovら (2009)は、ハダカデバネズミの線維芽細胞が、非常に低い細胞密度にもかかわらず、 接触阻害 になることを報告しています。したがって、この長寿命のハダカデバネズミの線維芽細胞 は、他の短命の齧歯類の線維芽細胞よりも、周囲により多くの空間を必要とし、隣の細胞を離れたところから知覚し、密集または過密になる前に成長を停止します。空間身体学的にいうと、ハダカデバネズミの線維芽細胞はいい「間合い」を知っているように見えます。

接触阻害という性質は、栄養分を奪い合うことなく効率良く秩序を保つために隣同士の細胞とうまく共存することを意味します。これは、「接触」に対する感受性が生命の秩序に関係していることを示唆しているのかもしれません。また、正常細胞には「足場依存性」という性質があり、生存し増殖するためには、拠り所となる足場に接地することが必要です。足場とコンタクトする、関係性を持つことが正常細胞の生育に必須なのです。また、細胞には、それぞれ一つずつ「一次繊毛」と呼ばれる物理刺激を感知するセンサーがありますが、癌細胞は一次繊毛が消失していることがわかっています。これらの関係を 以下の表にまとめています。

ハダカデバネズミ正常細胞がん細胞
(1)足場依存性++
(2)接触阻害+++
(3)一次繊毛++

Table1:正常細胞、癌細胞、およびハダカデバネズミ

 1)足場依存性 は、細胞と細胞外マトリックスとの関係を示します。 

2)接触阻害は、隣接する細胞同士の関係を示します。 

3)一次繊毛は環境に対する反応性を示唆しています。

癌細胞は周囲との関係性を失った無秩序な暴走状態にあります。このことから、周囲との相互作用が低下した細胞が、もし周囲の細胞外マトリクス或いは近くの細胞との関係を再構築できれば、再び生命の秩序の中に参加し直すことが可能なのではないかと想像します。

相互の関係性 = 秩序、正常化 

 様々なセラピーや身体技法が、身体と重力・空間との関係性や、他者との関係性を扱いますが、関係性の改善によってクライアントが回復する手助けになります。

さて、コロナパニックによって、人と人との距離がソーシャル・ディスタンスなる言葉で、遠ざけられ、言葉や表情から読み取るコミュニケーションもマスクされ、スキンシップも憚れるようになり、本来働くべき場所ではない処に止まるように強制され、思い切り働くことすら制限されている状況が今起きています。

この自粛ストレス下では、ハダカデバネズミとは真逆の生活を強いられ、実際、クライアントの中には、自粛ストレスで心身のバランスを崩す方も少なく有りません。

ハダカデバネズミは、真社会性の社会構造で生活することが知られています。それぞれに振り分けられた役割をこなしながら、コロニーを形成し、巣の中で互いに密に接触しながら生活する。草食で、繁殖をめぐっての争いもなく、平和的な生活を営むことが知られています。

1)コミュニティの中で、自分の役割をやり遂げる。

2) 人との適当な距離間と必要なスキンシップを保つ。

こうした生活様式が、長寿や癌にならないことにつながっていることが推測されますが、興味深いことに、飼育されたハダカデバネズミにはがんが見つかったという報告があります(😿)。人工的な環境で自然のコロニーから離した形で飼育してしまうと、本来の真社会性のコロニーでの暮らしとは異なり、自分の仕事の役割もなく生き方も変わってしまうのかもしれません。適所で働けないストレスなのか?或いは、本来の社会で働く自由を奪われることが、がん化を招いてしまうということなのでしょうか? 

いずれにしても、他者との相互の関係性は、長寿や健康に大きく関わっているようです。また、社会における自分の役割を果たすこと、他者とのスキンシップや適度な間合いも大切ということもいえそうです。

ハダカデバネズミの生活様式は、私達に多くのヒントを与えてくれているように思います。