月別アーカイブ: 2017年8月

離れたところから見守ることによる身体構造への影響

最近の場の探求〜自分の間合いを見つけるワークショップが面白い。

初参加でソマティックな働きかけに全くの素人の方でも,しっかり反応して変化が引き出される。ワークショップを通じて,より空間を観て感じる眼が養われてくるようだ。使えば使うほど,感覚は強化され,確かなものへと変わってくる。面白い経験だ。

見守るだけで身体構造に変化がもたらされる例

 

 

 

イールドの意味〜馴染む感覚

身体が怪我など危機を感じたときに,空間に対する認知が変わります。例えば,注射を打たれれば,その皮膚の周辺,組織のみならず,その周りの空間も別の感覚として捉えることになるでしょう。その周辺に何か対象があると,はっきりとした痛みのような感覚ではないけれども,何か落ち着かない感じやうっすらとした違和感が生じることが予想されます。ムチウチのような衝撃もそうですが,正にその事故が起きた時点では,症状として捉えられるような違和感はないとしても,それが時間をかけて影響を与え続け,何らかの障害をもたらすことがあるということです。

この時,身体はそれなりに今の状況に順応するために,慣れようとします。違和感や不具合があろうとも,その状況に慣れた状態になると,それが基本の状態となります。身体はいかに楽になろうとも,すぐさま慣れた状態から変わろうとすることには抵抗があります。変わることにはリスクが伴うからです。頭で分かっているけど,止められないということの一つの原因として,変化より”慣れた状態”を優先する,保存しようとする力が意外にも強いことに驚かされます。

そこから脱するとしても,今まで慣れた状態というのは,それなりの秩序の中で見えない関係性とのバランスで成り立っています。施術者からみた都合のいいような変化が中々起こらないのは,見えない関係性があって,そこに慣れ親しんでいて,それなりのメリットがあるわけです。

したがって,別の秩序の形態を得るには,別の関係性を作るためにどうしても時間が必要になります。そして,前の状況より,慣れ親しめそうな状態に方向づけされる必要があります。

では,どうやって?

慣れた状態から,馴染む状態へ

慣れる(get used to)とは,主体が一方的に克服してその状態に馴化すること。それに対して,馴染む(fit in) は,周囲の環境と調和している状態になります。慣れるが,調和というより無理に合わせる部分があるのに対して,馴染むには周囲と相互作用しながら,落ち着く(settlle)感覚が伴います。 settleには,移動していたものが最終的に定住するという意味がありますが,足場を見つけてその場所に落ち着くことは,あらゆる生物の本質的な最初の動き=イールドにつながることになります。

発達する過程でも,さらに現在身体の中でも細胞が成長するのに使われている動きがイールドです。この感覚と動きが起こるためには,周囲が安全であることが前提になるので,イールドが起こるということは,その場所を通して,安全に重力と馴染むという感覚と動きがセットになっています。心身がバランスを失っているような状況では,あれこれ行う前に,まず身体を休めてエネルギーを蓄えることが最優先です。

災害が起こった直後に,心のケアがどうこういう前に,まず被災された人々が心身ともに休息できる安全な場所を確保することが最優先であることと同じ原理です。

安全な状況でまず,そこに落ち着くこと,それによって,身体はやむを得ず適応して得た慣れた状態から,それよりも周囲と馴染んだ状態と感覚があったことを思い出すことで,変化してもリスクはないことを納得した上で必要なプロセスを開始するのではないか,と考えています。

イールドがまず起こるような場を設定することが,セッションの基盤であり,本質的なことだと考えています。そこが抜けていると,変わったことはわかるけれどもそれが馴染まない,定着しない,ということになってしまうのだと思います。

脳内での報酬という形で行動パターンを変えようとするアプローチもあるようですが,私は,心身のバランスを崩した状態に慣れた状況から脱するには,まずその場所に安心して落ち着くことによって,身体が周囲の環境に対する認識が変わり馴染んでくることで,重力を含む外側との関係性が変わるきっかけになるのではないかと考えています。

それが,イールドが身体構造に変化をもたらす要因の一つだと思います。