月別アーカイブ: 2019年12月

「空間身体学」 宣言

人生の中で、何かを宣言する機会ってほとんどないと思いますが、先日のVACANTでのイベントを、空間身体学という学問を提唱する日にしましょう、という片山洋次郎先生の御提案頂きました。敬愛する先生と一緒に宣言するのは誠に光栄です。 

身体を理解する上で、既存の概念には収まらないので、新しい学とすることで、様々な分野からの賛同を得たいと思います。

そこで、片山先生との間でとりまとめた「空間身体学」骨子です。

空間身体学:

・空間に対して広がりを持つ存在として身体を捉え、その在り方を研究する

・身体は空間から孤立した存在ではない

・身体のバランスは、外部環境との絶え間ない相互作用によって成り立つ

・それらの関係性の中で身体を動的な存在と捉え、身体とは何かを動的感覚による  実践的体験を元に探求する。

“ロルフィング・整体ばかりでなく、多様なボディワーク、瞑想、ヨーガや、武術、ダンスなどの領域で、身体を空間への連続体と感じている人たちとともに、身体と空間をつなぐ”学”を起こしていきたいと思います。さらには景観や建築やモノと身体のつながりをも探求していけると面白いことになりそうです。” (片山先生談)

どんな展開になるのか、来年から楽しみです。

2019年原宿VACANTでのイベントと共に  – Vol.2

vol.2「ロルフィング x 身がまま整体 ~心地よいカラダで年を越そう!~」
片山洋次郎 × 田畑浩良

2019.12.26 Thu

OPEN 19:00 / START 19:30
at VACANT/2F

定員:各回20名

vol.2のゲストは、身がまま整体『気響会』を主宰されている片山洋次郎さんです。片山さんが創り上げられた独自の整体法は高い評価を受けており、施術のみならず、多くの著作を通じて、身も心も気持ちよく生きる知恵を広められています。

今回は「心地よい身体で年を越す」をテーマに、何度もコラボレーションを重ねられているお二人の指導のもと、ご自身のカラダを労っていただきます。

原宿Vacantの大切な時期にこのような機会を頂き、とても光栄に感じています。
元々ロルファー仲間の楠美奈生さんが、こちらの素敵な空間で、身体についてのディープなワークショップを定期的に開催されていることは伺っていました。その楠美さんを通じてお声かけ頂いた時に、すぐ頭に浮かんだのがお二人とのコラボレーションです。

片山洋次郎先生とは、十数年前から、交換セッションやワークショップを通じて、共鳴や間合いなどについて探求を深めさせて頂いています。先生と共に、身体の声を無視した矯正的または固定的介入とは異なる、”動的な感覚”を重視する「空間身体学」を提唱しようとしているところです。それは、施術者の知覚状態 – 在り方を大切にしていて、触れることに囚われず、空間と身体との関係性を重視しています。参加者同士の交換ワークを通して、いい間合いと楽な呼吸、共鳴し合う、”心地いい”身体を体感して頂ければと思います。

片山先生の佇まいはいつ拝見してもすばらしいです。
レジェンドのデモのワーク。

空間に対する身体感覚を上げるウォーミングアップをしてからの、片山先生の仙骨を通しての背面への働きかけの様子。シンプルなタッチで、みるみる身体がゆるんでいくのが、わかりました。

田畑のデモのワーク。

デモの合間に、片山先生の身体はどのように共鳴しているのか、フィードバックをもらいながら、ワークを進めた。肝臓・胃の声を聞いてみた。

参加生同士ペアを組んで実習。

広いVACANTの空間を贅沢に使っての、交換ワーク。待って、しっかり聴いてやることで、身体は自ずと変化を始める。ただ、どの音を聴こうとしているかが、ポイントだったりするね。

最後のQ and Aの様子。
レジェンドとの記念撮影。

空間との親和性が増せば、自ずと身体は調整を開始することを参加者の方々と共有できたのではないかと思います。

このワークショップが始まる前に何をどうするか、かなり白紙でしたが、その場の空間がすることを誘ってくれた。片山先生の誘導の後、肝臓と胃の音、振動を聴いてみる感覚で触れる。すると各臓器も聞き手がいることを認識して、反応を始める。安全・安心の場の中で。

片山先生の直感からの曲リクエスト、Water is wideを皆で聴きながら、エンディング。来年にはもうこの会場はなくなってしまうけれども、参加してくれた人達のカラダを通して、ここで共有したことがずっと響き続けるような気がしました。

さよなら、VACANT、ありがとう!

担当の吉田さん、声をかけてくれたロルファーの楠美さんにも感謝!

2019年のいい締めくくりができました。

2019年原宿VACANTでのイベントと共に – Vol.1

Workshop:

特別なカラダの時間
 

vol.1「オトとカラダと ~耳をすますと起こる変化~」

山崎阿弥 × 田畑浩良

2019.12.4 Wed
OPEN 19:00 / START 19:30

というスケジュールで今年いっぱいで幕を閉じる原宿VACANTにてワークショップしました。

山崎阿弥さんとは、初のコラボレーションです。パフォーマンスを拝見して、私の中の「声」というものに対する認識がガラッと変わりました。山崎さんの音に対する捉え方と声の響かせ方は非常にユニークで、声楽のみならず、身体技法にとっても参考にすべきヒントが詰まっています。そのあたりを伺いながら、いい間合いとなるような場を整えながら、音や振動を介して、身体の感覚がどのように変化するのか、参加者のみなさんと実験を通して、体験したいと思います。

サウンドの持つ力は、マントラやチャントによっても意味があるとはわかっていても、どれほどか?どのくらい可能性があるのか?よく把握できてません。ソマティック・エクスペリエンスというトラウマ療法でWuuという響きを使うことはありますが、それがうまくはまるときもあるし、そうでないときもある。音は、振動であり、細かい動きでもあります。だから、それをうまく使うことができれば、身体の調整に役立つことは間違いないだろうな、というところまでは想像がつきます。

山崎さんとのやり取りでその辺りがもっと掘り下げられるような気がしたので、コラボを依頼した次第です。

山崎さんの声を聴く
部屋の空間における居心地いい場所をみつけるソマティックベースのコンステレーションのワーク。
骨間膜の音を聴くデモンストレーション。
整ったカラダに山崎さんの声を響かせる。
クラスを終えてほっとする。
妻と舞台俳優の方も参加してくれました。

予想通り、空間に親和性が増して、整ったところに、音が響くことで、体調がよくなった方が続出。大いなる実験は大成功でした。

雑誌ソトコトの記事完全版

校了と思いきや、レイアウトしてみたら文字数が多いので削ってほしいという直前の依頼があって、多少削られる経緯がありましたが、第一次編集バージョンが以下の通りです。

日欧講師共演ロルフムーブメントワークショップ

欧州ロルフィング協会講師ニコラ・カロフィーリオを迎えて

昨年末、欧州トレーニングを修了したロルファーの串崎昌彦さんから、ニコラという欧州ロルフィング協会の講師が、私と一緒に日本でクラスを教えたいと希望しているが、どうでしょうか?という打診のメールが来た。サーフィンを愛し、世界各地のマニアックな波を追い求め、怪我をも厭わず旅を続けてきた彼が、自分と組み合わせたい人物がいるという。急ではあったが、何かいい流れの予感を感じ、二つ返事でOKした。串崎さんによると、ニコラは以前より私がロルフ・インスティテュートの機関誌で報告してきた間とイールドを用いた技法に共感し、とても興味を持っているらしく、 自身の探求のためにも共演を楽しみに来日を待ち望んでいるとのことだった。

会ったこともない相手と共演するのは、かなりチャレンジなことだが、ここは串崎さんの勘を信頼することにした。

近年、欧州講師フベア・ゴダールが知覚を使った独自の理論を導入することでさらに発展を遂げたロルフムーブメント™。筆者は「間」や「肚」の概念を導入したが、フベアの流れを汲むニコラの目に私のワークは、どう映るだろうか?

今回、報酬基準の高い欧州講師の来日とあって、受講料が比較的高めに設定されたにも関わらず、ほぼ満席となり、この講座へ関心の高さが示された。

「東洋と西洋の体現」

6日間のクラスを通して、施術・セッションにおいて最も基礎となる、安全・安心な「場」をどうやって創りだすことができるかについてが大きなテーマとなった。そして、キーワードはエンボディメント (体現)。朝はニコラの誘導で、ムーブメント瞑想からはじまり、会場の柱や畳に一つ一つ手で触れることによって、今この空間にいることを実感し、会場に次第に親しみを感じ、安心できる空間へと捉え方が変わっていく。ニコラの一つ一つの振る舞いから、日本文化に対するリスペクトを感じた。

ニコラはイタリアのバーリで生まれ、ダンサーそして振付師として長年ドイツなどで活動。母国語に加え、英語、ドイツ語やフランス語も話し、ラテン語にも造詣が深い。言葉の語源や音の響きからもその意味を背景ごと伝えようとする。ニコラの声の響き、言葉と言葉の間の取り方、一つ一つの動きの精妙さ、そのすべてに「静けさ」が存在した。時折見せるダイナミックな動きをしても、それまでの流れや場を乱すことはない。きっとそれは、彼のダンサーとしての経験が関係しているに違いない。そして、講師の伝えたいことや流れを尊重し、余計な解釈を足さず、かといって大切なことを省かず「そのまま」伝えてくれるロルファーの古川智美さんの通訳は絶妙だった。

ニコラの胎生学的観点からの腕についてのレクチャー。

クラスは、例えるとフリースタイルのラップのように相手のデモを受けて、次どんなデモをするか決めていく流れとなった。そのデモは、大半が普段試したことのないワークだった。3日目の終わりには、感極まったニコラの目から涙がこぼれた。

「究極的にロルフィングはロルファーのためのもの」

後半のクラスは、ロルフ博士が残した「重力がセラピストである」という言葉を体現するための探求で、前半の内容をさらにマッサージテーブル上での実践に応用するための内容となった。デモから生徒同士の交換セッション→体験のシェア→田畑のデモ→→というサイクルがどんどん回り続ける。ニコラは、重力の音としての「静けさ」を、私は居心地よくあるための相互主観的な「間」を深めた上でデモを提示していく。教える側にライブ感と、実際はどうなるかわからない反応にオープンでありつつも、実験的な緊張感があった。デモによってインスパイアされ、それを参考に実習し、その体験を全体でシェアすることで理解が立体的に深まり、頭の理解を越えた身体全体にエンボディされる。ワークを重ねるごとに個々の静けさが深まり、重力のみならず空間との親和性がどんどん高まっていくドープな体験となった。

田畑氏のデモンストレーション。胸郭や喉に働きかける前の全体に委ねる動きと感覚を引き出しているところ。
腕へのワークのデモ。橈骨と尺骨に新しい動きをインプットする。

オランダから参加してくれたコスタスさんは、このクラスの終わりに、私達講師同士が互いにインスパイアされ影響し合う姿をみて、ギリシャ人らしくアリストテレスの言葉を引用しながら、

「古代ギリシャにおいて最高位の価値があると考えられていた理想の一つは、気のいい同じ価値観を共有する友人関係で、それを二人のやりとりの中に見ることができた。これからもその関係を続けてほしい。」という賛辞に満ちたフィードバックをくれた。

このクラスで扱われた内容は、テクニック以前の施術者としての在り方や意識の向け方について、そして、創造的なセッションを目指す施術者にとって参考になったに違いない。

会場、講師、通訳などほとんどの設定をコーディネイトしてくれた串崎昌彦さん、そしてそこに賛同してくれた参加生の方々には感謝の言葉しかない。

欧州から3名の参加があり、ロルファー以外にヨガ、ジャイロトニック講師、ダンサー、ロルファー志望生を含む多様性に富む構成となった。

クラス後数ヶ月が経過した現在も、余韻が残っている。音の波が、減衰することはあっても消えることはないように、あのクラス全体で共に響き合った振動は、ずっと身体とその周りで響き続けているようだ。

この記事を執筆中にブラジルのムーブメント講師モニカ・カスパリ先生の訃報が入った。まだまだ現役で活躍されると信じていただけに、残念でならない。自分達がワークできる時間には限りがあることを肝に銘じつつ、偉大なムーブメント講師だった先生のご冥福をお祈りします。

ニコラ・カロフィーリオ

 イタリア、ドイツでダンスを学び、約20年以上に渡りダンサー、 振付師として 活躍。指圧を通じて身体の理解を深め、心身の探求を始める。 その後、Rolfing® 、 Gyrotonic Expansion System®を学ぶ。生地イタリアを拠点とし、現在欧州ロルフィング協会 (ERA)で、Rolf Movement®講師として活動。数多くのRolfingトレーニングをアシストし、他の講師及び生徒からも絶大な人気を誇り、新進気鋭の逸材と評判も高い。www.thinkingbody.it 

田畑浩良

( 株 ) 林原生物化学研究所の研究員を経て、1998年米国コロラド州ボールダーのRolf Instituteによってロルファーとして認定される。動的感覚を伴った繊細な介在としてのRolfing®をデザインし、個人セッション提供を中心に活動。2009年には、Rolf InstituteのRolf Movement®講師として任命され、細胞生化学的視点と日本固有の概念である肚、間を統合したRolf Movement認定プログラムを国内外で提供中。www.rolfinger.com

 ※ロルフィング®、ロルファー™、ロルフ・ムー ブメント™、Rolf Instituteは、Dr. Ida Rolf Institute of Structural Integrationの商標であり、米国以外に日本を含む他の国々で登録されています。日本で活動しているロルファー及びロルフムーブメントプラクティショナーは、日本ロルフィング 協会の公式サイト(rolfing.or.jp)から検索できます。 

このクラス修了をもって必要30日単位取得を満たした串崎昌彦さん(写真中央)は、めでたくロルフムーブメント™プラクティショナーとして認定された。今後の活躍を期待しています。

後日談

このクラスはかなりのインパクトがあったようで、このクラスの参加によって、ロルファーに具体的になろうと決心した方が少なくとも3人いるという。さらに敏腕オーガナイザーの串崎氏によって、後半申込みがぐっと上がって、日本ロルフィング協会に残すお金もかなり残ったとのこと。計画当初、ニコラなんて知らないし、人なんてどうせ集まらないから無理じゃね?という雰囲気もあったようだが、そんな風もどこか遠くにぶっ飛んだawesomeなイベントだった。結果的に、しっかり黒字という成果も残しての完結、串崎さん、完璧、気持ちがいいです。