そのセッションを続けるか,中止するか?  

クライアントの中には,過去のトラウマを何とかしたいために,様々な療法を試みた方がいらっしゃいます。でもセラピストから言われたことがそのままトラウマになっているケースも多いようです。

Aさんは,虐待経験のある方であるトラウマ療法に何度も通ったらしいのですが,

(1)セラピストが治療中寝てしまうことが多発。

(2)希望しているセラピー以外のことをしたがる。

(3)トラウマ体験を話したくないという意向を聞いてもらえない。

(4)中止を申し出ると「今中断すると今までやってきたことがすべて無駄になってしまうので止めてはいけない。」という対応。

ここで,(1)に関しては,ボディ中心のワークですと,クライアントと共鳴しつつ,深く入っていく過程で覚醒度が下がって,意識が落ちたように度々なることは起こりえるので,一概に”よくない”態度と決めつけることはできません。ただ,セラピストが寝不足だったり,実際にセッションへの集中度が下がっている場合,それ以外に双方に麻酔のトラウマを持っている場合にもそうしたことが起こり得る可能性があります。いずれにしても,セラピスト側の問題はできるだけクリアして臨む努力は必須と考えられます。

(2)と(3)に関しては,クライアントの意向は聞くべきで,セラピストの充足感のためのセラピーになっていないかチェックする必要があります。

(4)については,ロルフィングのようにシリーズで受けて初めて意味が出てくる場合もありますが,あくまで原則であって,仮に中断したとしても全くそれまでのワークが意味のないものになってしまうということはないはずです。また,クライアントがどうしても中断したいという意志は尊重されるべきです。

(4)のような対応を受けたAさんは,結局セラピストを変えたものの,言われた言葉がずっと気になってしまい,夜眠れなくなる,寝てもビクビクしながらすぐ目が覚めてしまう日々が続いたということです。つまり,セラピストの言葉がトラウマになってしまったケースです。セラピーを開始するよりさらに後退する結果となっているのは深刻な事態で,このケースでは,明らかにそのセラピストの言動に問題があったといえます。

オリエンテーションを失って非常に気弱になっているクライアントが,半ば強引に主導権をもっている指導者なりセラピストに引っ張ってもらってなんとかなるケースもあるにはありますが,最終的にクライアントが自分の感覚で様々な判断や選択ができるようにencourageまたは,enpowerすることがプラクティショナーの役割だとすれば,それを感じられない場合は,できるだけ早めに,思い切って,そのセラピストと縁を切って別のチョイスに目を向けることです。

感じとる力が蘇ってくれば,最初からそのセラピストには何か不自然なものをもう少しはっきり感じ取って,そこにすら行かない状態になれるはず,それが目指すところ。ただ,人間弱くなっていると肚の感覚より情報を優先して判断してしまいがちなので,セラピーを提供する側は,クライアントを”囲いこまない”,”自由意志を尊重する”,”セッション中の言動には十分過ぎる程注意する”こと肝に銘じるべきでしょう。