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Tuning Boardの可能性、価値について

Tuning Boardの可能性、価値について

Tuning Board上でワークする意味

過去のトラウマ体験に大きく影響を受けているケースでは、いかにクライアントを今という時間軸に戻した上で、必要なプロセスを進めるか、ということに終始する必要があります。健全なリソースにならないような過去の時間軸に意識が向いてしまい、今起きている身体を通しての体験にフォーカスされない限り、起こる反応は、パターンのくり返しや追体験につながってしまい、反射的なパターンを強化することになってしまいます。それを避けるためには、身体の筋肉を使い、適切な張力を保ちながら、身体から意識を離さない、意識が途切れないように工夫することです。セラピストの言葉がけによる、本人への気づきの促しもその一つの方法ですし、セラピストが集中力を保ちながらトラッキングし続けるという戦略もありますが、その合間をぬって、過去の体験の記憶にどっぶりアクセスして、いわゆるトラウマの渦に入ってしまうスキがあります。

では、クライアントがTBに乗っているという状況によってどんなことが予想されるでしょうか?

クライアントは、TB上でバランスを取ろうとして、途切れることなく、身体に意識を向け続けることを余儀なくされます。もし、今のバランスに必要なだけの身体への集中が途切れたときに、TBは大きく揺らぎバランスを欠くことで、身体に感覚を戻すことを教えてくれます。つまり、TBに乗るというシンプルな行為によって、身体はフル稼働で平衡感覚を司る前庭系や、固有受容感覚を働かせることになります。身体感覚が、解離するヒマを与えない、かといって、機械的な負荷が過剰にかかって逆にフェルトセンスを感じる余裕がなくなるわけでもない、ちょうどその間です。バランスを取るのに、努力しているわけでもないけれども、怠けているわけでもない、TBは、その間に立つように、方向づけられます。

ライン上に立つ

ロルフィングの創始者アイダ・ロルフ博士は、人間を次のように定義しています。

人間とは、ラインの周りに形作られたものである。

言葉を換えると、ラインが人間を成り立たせている源ということになり、人間の中にはラインが既にある、それが人間を形成した生命力であり、構成力であり、治癒力であり、復元力ともつながっている。ラインによって作られた人間は成長するに従って、怪我やトラウマなど様々な外的要因によって、ラインが潜在してしまうが、個人の成熟や進化とは、再びラインを顕在化することではないかと考えています。ポテンシャルをポテンシャルのまま埋もれさせてしまうか、成熟するに従って、ラインが現れるように調整し、生きることもできる。それは選択であり、可能性ともいえます。話が逸れましたが、Tuning Boardに立つということは、手技に頼らず、ボード上に立ったクライアント自身が、自分の中にラインを見つけ、周囲の空間との関係性を見直すワークです。ここにプラクティショナーが介在することで、関係性の中での位置関係が僅かに相互作用を生み出し、自分の立ち方のお決まりの偏ったパターンから抜けだし、ラインを身体の中に見つけ直すという大きな意味を持つワークになります。ラインが健在したときに、人間は重力を外からのストレスではなく、重力というエネルギーを利用する側に立つことができるのです。


Brantbjergらは、ポリヴェーガル理論が提示する腹側迷走神経(ventral vagal)と背側迷走神経(dorsal vagal)の二分法だけでは、臨床的な実感に即した扱いが難しいとし、より軽度で日常的な副交感神経反応として、「PNS I」というカテゴリーを提唱しています。これは以下のような状態を示すための分類です:

  • 完全なフリーズではないが、引きこもり傾向や意欲低下が見られる
  • 防衛反応が働いているが、生命の脅威レベルには至らない抑制状態

この状態は、ロルファーからの視点からすると、重力という負荷と”闘っている”状態であり、そこから安心/安定が得られず、恒常的で軽度の防衛反応が引き出され、エネルギーがロスして枯渇しやすい状態ということができます。こういうケースは、程度の差はあれ、エネルギーが低いため、それを補うために、人間関係などの外からの要因から得ようとします。共依存という名のエネルギーの奪い合いになるため、争いが生じやすくなります。つまり、防衛反応が常にオンになっています。

その状態から脱するには、まず人や外から何かを得ようとする寄生的な在り方をまず変える必要があります。

こうした「無気力」や「低反応」の状態に対して、Brantbjergらは以下のような介入が有効であるとしています:

  • 共感的なコンタクト
  • ゆるやかなペーシング
  • 小さな動きや内的感覚への繊細なアプローチ

これらはまさに、TBを用いたトラッキングやイールドワークが最も得意とする領域であり、このアプローチがPNS Iの状態への復元力をサポートするのに適していることは明らかです。そして、インターパーソナルな方法論からも脱して、まず人間の身体構造が、重力と闘わずに防衛反応をオフにして、重力場と調和した状態になることが、一見遠回りに見えても近道なのではないかと考察しています。

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