Ko2ウェブマガジンでお世話になっている編集者の下村さんが肝いりで推す揺腕法。それが書籍になったとのことで拝読した感想を以下に示す。
静のヒモトレと動の揺腕法
立位または坐位で腕を上げる動作をすると、ヒラメ筋や脊柱起立筋などの抗重力筋が働くことで姿勢が維持される。腕を前後に振ることで、きわめて精妙に抗重力筋群が協調しながら、内蔵空間を保つ。揺腕の動きによる安定化の負荷は、バランスボードに乗る際の刺激と共通しているが、異なる点は、足や坐面という足場が安定した状態で行なえるため、立つことさえままならない状態の方にも応用できる。
身体構造的に体幹部が安定して、内臓空間が確保されるメリットは計り知れない。体幹はそもそも「鍛える」べき対象ではない。ヒモを巻くという行為は、身体を意識し過ぎでもなく、かといって無視するわけでもない。そして揺腕法は、腕を動かそうと意識し過ぎるわけでもなく、慣性のままにするわけでもない、ちょうど間の中動態を目指している点も興味深い。どちらでもあって、どちらでもない間には、お宝が隠れていることが多い。
揺腕法は、体幹/体軸を囲む筋肉群の協調をさりげなく扱えるという点において、大きな意味を持つ。一人でも手軽にはじめられ、しかも奥が深いという点で、ヒモトレと並ぶシンプルで継続しやすい方法として、普及していくに違いない。
ロルフィングセッションとセッションの間やセッションの後、自分でできることは何か?とよく尋ねられる。よほど身体感覚のある優れたパーソナルトレーナーでない限り、sleeve側の筋肉を発達させ、intrinsic マッスルを不活性化して、バランスがかえって偏るようなジムトレーニングやエクササイズはお勧めしない。(ただし、楽しい範囲で進めるのはいいと思う)
負荷の少ない、ウォーキングやジョギングを勧めることはある。軽く汗をかく程度にするとよい、とよくいわれることであるが、その意味はその位距離を歩くと、その過程で身体がより負荷なく動こうとして、体幹が安定化するようにコーディネイションする。動き始めは身体が重かったりしんどさが感じられても、あるところから余分な力が抜けて、快適さがでてくる瞬間がくるのを体験された方はいると思う。
体幹部の安定化に伴い、身体全体の張力が、過緊張でもなく虚脱でもない状態に移行するにしたがい、吸気と呼気が両立するバランスとなる。しっかり吸えてしっかり吐けるなら、自ずと自律神経も安定してくる。姿勢維持が容易になるなら、抗重力筋、つまりTonic musclesをコントロールしている辺縁系や大脳基底核の神経ネットワークも次第に整理され再構成される。つまり、その領域は、情動や感情を司る脳内の担当部署であることから、自動反応的なトラウマ的なパターンが知らず知らずのうちに修正されることも起こりうる。実際に身体指向のトラウマ療法としても活用されているSomatic Experiencing®の創始者Peter Levine博士も、セラピーの現場で、体幹部を刺激する振動性の器具を用いることがある。書籍内に掲載されている様々な体験は、不思議な現象ではなく、かといって過度に期待すれば叶うような直線的過程は辿らないとしても、すべて起こりうる可能性に満ちている。