ライブラリー

ソトコト記事

Rolf Instituteの教員や同僚との交流

Sotokoto 2013年12月号

ロルフィング追求記。

ロルファー、アメリカでさらなる境地に。

ロルファーの田畑さんのもとに誘惑の案内が。それはアリゾナ州フェニックスで開かれる、最新のセミナー。参加した田畑さん、どうやら仲間たちとロルフィングの発展の変遷という、かけがえのない時間を共有したようです。

いざ、アリゾナへ

ロルフ・インスティテュートの教員向けに、セミナーの案内が届いた。講師の中に、ジェフリー・メイトランドの名前がある。NBAチームのスタッフとして、数々のスーパースターたちをロルフィング®※1してきた実績に加え、長年ロルフ・インスティテュートの教授陣の中枢にいるロルファーである。いつか彼から学びたいと思っていたが、残念なことに、現在はレギュラーなクラスは教えていない。その彼が、エネルギー的なアプローチをどう取り入れていくか、という魅力的な内容のクラスを開くという。他に講師として、ソースポイント・セラピー※2というエネルギーワークを実践している2名のロルファーがエントリーされている。場所は、アリゾナ州フェニックス。ジェフリーの活動拠点である。

ジェフリー・メイトランド先生と新刊(当時)。
ジェフリー・メイトランド先生と新刊(当時)。

セミナー前日 「触れないロルフィング!?」

せっかくの機会なので、前日にジェフリーの個人セッションを受ける。

スコッツデールに位置する彼のオフィスには、彼の新刊が飾ってある。哲学の博士号を持ち、ロルファーになる以前大学で教鞭をとっていた彼は、禅を探究し、〝法覚〟という名前を授かっている。

セッションはまず、胸郭の膜組織への働きかけから始まる。タッチはきわめて優しい。左肩の不調を伝えると、パーカッサーという機器を用いて、振動を部位に当てる。機器を使うロルフィングは初めてだが、確かに肩の動きがスムーズに感じる。

最後に「〝何もしない〟ワークをするけど、いいか?」と聞かれ、もちろんOKと答える。台に横になり、離れたところでジェフリーが座ってただこちらを見守っている。しばらくすると私の身体が反応し始め、胸郭に息がぐぐっと入ってくる。彼が知覚していることを聞き流していると、ある時点で気分が変わってくるのが感じられた。彼曰く、それがジョイの感覚だ、という。終始ただ見守られているだけだったが、私の胸郭は深いところから広がり、新しいジョイの感覚に満ちている。この〝触れないワーク〟が、紹介されると思うと明日からのセミナーに期待が高まる。

セミナー初日 「ロルフィングを再定義!?」

参加の半数以上が初対面だが、米国のロルフィングクラスで、私のクライアントを教えたことがある先生がほとんどで、不思議な親近感を感じる。上級インストラクターのレイ・マッコール※3の進行によって、エネルギーワークをどのように実践の中で使っているかを一人一人シェアしたり、ジェフリーが提案する、エネルギーワークを盛り込んだロルフィングの再定義についてもディスカッションが進む。英語のシャワーに頭はパンク寸前で発言まで至らず悶々とする。

午後は、実習もあって幾分楽だが、なにせ組む相手はそうそうたる先生ばかりで気は抜けない。最初のペアは、恩師のスーザン・ピカード※4。自分の意識の向け方を変えることで、身体が圧力を感じたり、オープンになったりするのを体験する。続いて、ソースポイントを取り入れたレイのデモセッション。腕利きロルファーによって質の高い統合が引き出されることに驚きはないが、終わった後に、彼がフーッと大きなため息をついていたのが印象的だった。34年のキャリアを持つレイでも、大御所ジェフリーや他の教員の前ではさすがに緊張することを知り、ちょっとほっとする。

ジェフリー独自のエネルギーワークのデモ。数々のNBAのスターをロルフィングしてきた。
ジェフリー独自のエネルギーワークのデモ。数々のNBAのスターをロルフィングしてきた。

セミナー2日目 「思わぬ展開」

朝から、ジェフリー独自のエネルギーワークのデモを興味深く観察。彼のたたずまいはすばらしい。起きてくることをただニュートラルに捉え、淡々としているが、どこか遊び心がある感じ。法覚和尚のワークはかなり翔んでるけれど、抵抗なく観ていられる。

彼のデモに倣って手を触れずに行う実習はハワイの先生サリーと組む。お互いに実感できる変化を共有してゆったりと休憩時間を過ごしていると、メアリー・ボンド女史が寄ってきて、「あなたのデモが見たいわ」という突然のリクエスト※5。「私は今日の夕方帰っちゃうから、今日がいいわね」とのさらなる追い打ちに、しばし言葉を失う。しかし、ここで発言もなく存在感を示すことなく帰国するのも情けない。せっかくのチャンスと気を取り直し、思い切って「OK」とメアリーに告げ、進行役のレイに交渉しにいく。すると予定されていたボブ・シュライ※6の講義の前にあっさりねじ込んでもらうことに。

デモセッションの受け手に名乗りをあげてくれたのは、リクエストしてくれた当人のメアリー先生。見たいって言ったのに、受けることになってますけど〜、とつっこむ余裕は勿論ない。

まず、触れる前に、感覚を身体に集めてくる指向と周囲の空間に発散する指向の両方の感覚を持ちつつ、受け手の身体で起きていることを見守る。すると、受け手の身体に呼吸が入ってくる。後は、身体に呼吸に伴う振動が伝わりやすいように軽く触れて、見守る、を繰り返し、時折離れた位置からもワーク。周囲からもはっきり変化が分かる結果となって、無事終了。

メアリーから、「ロルフ博士のスピリットが海を越え、日本で花を咲かせている」というお言葉をもらった。ジェフリーは、「スウィート、スウィート」と何度も繰り返し、「このワークは、君が発展させたのか? 次回、動画撮影していいかい?」と話しかけてくれた。メアリーからお礼に彼女のDVD※7をプレゼントされた。そして、討論中の私の黙り状態を見ていたからなのか、「ヒロ、アメリカにいるときは、黙ってちゃだめ、アメリカ人になりなさい! そしてしゃべりなさい! みんなあなたに耳を傾けるから!!」と強烈なアドバイスをいただく。とにかく、自分のワーク※8を教授陣の前でプレゼンしてお褒めをいただき、日本から来た甲斐があった。

アート・オブ・イールドをデモンストレーションする。
アート・オブ・イールドをデモンストレーションする。

最終3日目

朝は、ボブ・シュライによるソースポイントのデモに続いて、その恩師・キャロル先生と交換セッションの実習。この技法を自分が使うイメージはないが、ロルフ博士のエネルギーに対するコメントを引用してロルフィングとの関連をうまく説明している点や、手順がきっちりしていることなどが、導入しやすい理由なのだと納得した。

4人のそれぞれの形のエネルギー的なアプローチ(触れない働きかけを含む)が、通常のロルフィングセッションと同様の効果があることを共有できた。さらにこの続きのセミナーを来年開くことを決めて閉会。

今回参加のベスニー(前列一番左)とレアリー(後列左から3番目)は、教員同士のカップル。この時婚約中で、もうすぐ結婚とのこと。スーザンは前列左から4番目。レイとボブは右からそれぞれ前列3番目と後列一番右。
今回参加のベスニー(前列一番左)とレアリー(後列左から3番目)は、教員同士のカップル。この時婚約中で、もうすぐ結婚とのこと。スーザンは前列左から4番目。レイとボブは右からそれぞれ前列3番目と後列一番右。

最後に

ロルフィングの基本の10回の型を習得する段階が、〝守〟、それを自分なりに発展させる〝破〟、そして、技法や型から離れ、自由自在の境地にあるのが、〝離〟だとするなら、ジェフリーは、まさにその〝離〟の境地にいる印象だった。創始者ロルフ博士の亡き後、ロルフィングのエッセンスを中心になって抽出し原則としてまとめた彼が、この技法をさらに進化させるためには、定義や教育にも変革が必要だと感じたに違いない。

しっかりと圧力を加えるタイプのワークはこれからも変わらず基本の型として残っていくだろう。新しい試みとしてのエネルギーワークの検討は始まったばかりである。いずれにしても、このタイミングで、同志と共にロルフィングの発展の変遷に立ち会い、関わることができるのはとても光栄なことである。

ジェフリー・メイトランド先生と。
ジェフリー・メイトランド先生と。

初出:ソトコト 2013年12月号(木楽舎)。本文は掲載時のまま、明らかな誤字のみ修正しています。


Sotokoto 2014年11月号

ロルフィング追求記。パート2

ロルファー、仲間たちの待つアメリカに!

ロルファーの田畑さんから編集部に連絡が。「昨年、開催されたセミナーの続編に行ってきました」それは興味津々! 今回は自身のワークを披露する模様。はたして信頼する仲間たちからの反応は?

昨年のセミナーの続き

コロラド州ボールダーに本拠地を置く、ロルファー™養成の教育および研究機関Rolf Institute®では、身体の統合のために〝有効な技術や概念〟を取り入れつつ、今なお定義の見直しや発展のための検討が続けられている。昨年、教員らが中心となって「ロルフィング®※1を再検討するうえでのエネルギーワークの探求」というテーマで3日間のセミナーが開催された。

様々なタイプのオフ・ボディ(触れない働きかけ)が紹介され、その中で自分のワークをデモする機会を得た。イールドワーク※2と呼んでいる私のワークは、教授陣の目には、どの技法とも似ていない斬新なアプローチとして映ったようだ。加えて実際の構造変化を伴う実践例を示したこともまた、彼等の興味を引くこととなり、今年のミーティングの前半は、私のワークを紹介することとなった。

再びアリゾナへ

3月のフェニックスは、ベースボールシーズンと重なり、心地いい気候で観光客も多い。メジャーリーグの半分がここに集まり練習試合を行うために、最も人気の高い時期。

昨年と同じB & BのZenYard Guesthouseに宿泊。クラス前日に今回コーディネーターを引き受けてくれたキャロルとレイを交えて打ち合わせ。4日間を通して、イールドワークをロルフィング®10シリーズの中に組み込むための概念と実践について紹介するのがワークショップの趣旨である。

イールドワークとは?

ヒトが成長する段階でまず最初にやることは、自分の重さを母胎に「ゆだねる動き」(=イールド)である。私たちが世界と関わりを持つ際の根底にある活動と考えられている※3。細胞レベルでも、試験管内で正常な細胞が生存・成育するためには、接触面に対するイールド※4が不可欠であることが知られている。細胞の集合体である身体が、その重さをその場に十分に預けることができれば、心身ともに落ち着きを取り戻し、次に周囲の環境に対して広がろうとする動きが自ずと生まれる。触れたところを安全な足場であると受け手の身体が認識すれば、それがきっかけとなって、萎縮して固まっていた組織に動きが回復し、周りの組織とのつながりや空間的な広がりを取り戻す。イールドワークは、すでに身体が知っている原初的な「振る舞い」を利用している。

前半〜初日

自分の倍以上のキャリアのある先輩相手に、しかも英語でプレゼンするというのはあまりにチャレンジすぎるので、当日までなるべく考えないようにしていた。なにしろ鋭い観察眼を持ち、これまで多くの監督をしてきた教授陣に小細工は通用しない。ただ、ロルファーの強みとしては、身体技法は元々が非言語的なやりとりであるから、実際にやっているところを見せるのが手っ取り早い。

まず、このワークの鍵が、プラクティショナーの感覚・意識状態にあることを説明する。立ち位置や間合いの重要性にもふれながら、数秒程度の軽いタッチでデモンストレーションを進める。今回モデル・クライアントとなってくれたキャシーはベイエリアからの参加。見守る時間をしっかりとっていると、身体が横たわっている台に対して預ける反応が進み、仙骨に自発的な動きが伴う深い反応が引き出される。受け手の高い応答性に助けられて、出だしは好調。集まってくれた面々は、こちらからの投げかけをすべてポジティブに理解してくれるから、とにかく楽しい。さまざまな視点からとらえられることで、このワークの解釈がどんどん立体的になっていく。優秀な教師というのは、学ぶ姿勢も一貫してすばらしい。教えるのがとても楽に感じる。ロルファーは頭ではなく、たえず身体感覚を介しているためか、こちらが言わんとすることへの理解に滞りがなく、すべてがスムーズだ。自分が蓄積してきた情報を惜しみなくシェアし、それを好意的にたくさん受け取ってくれるプラスの循環に大きな喜びを感じる。

2〜3日目

このワークで用いる様々な種類のタッチを紹介。どれも基本的には触れるか触れない程度か、あるいは触れていても圧力は極めて小さい。ロルファーが知覚をシフトさせ、身体をか弱い細胞という泡の集まりとして認識するだけで、触れ方やタッチの作用・印象が根本から変わってくる。対象としての受け手をどのようにとらえるかによって、受け手の反応性は大きく影響を受ける。ロルフィング10シリーズのうち第1から第3セッションのデモを立て続けに行っていく。デモの後は、参加者同士の交換セッション。自分が示したことを、大先輩がそのまま練習している様子はなんともいえない不思議な光景である。創始者ロルフ博士から直接学んだという大先輩も、紹介した方法をえらく気に入ってくれたらしく、ええ? こんな軽いタッチで変化するのか!? という意味を込めて、苦笑いしながら、「Shit!!」を連発していた。

ワークショップ最終日

午前中の第4セッションのデモは特に深い体験となって、モデルになってくれた先達から、これまで数百回と受けてきた様々なセッションの中で、最も印象的だった! との感想をいただく。午後は気を引き締めて、最後のデモ。第5セッションは、ジェフリーをモデルに通常より少し応用的な体勢でワーク。ちょっと欲張ったか、通常どおりのほうがよかったかもとちょっと反省。最後は、感謝と共に無事終了。オリジナリティに敬意を払い、若輩からも学ぼうとする姿勢、経験や年齢、ステイタスに関係なく気さくに接してくれるすばらしい仲間との充実した時間はあっという間だった。

ジェフリーにデモンストレーション中。
ジェフリーにデモンストレーション中。

後半〜エネルギーに関するセミナー

新たに3名が加わり、昨日までのクラスとは別の雰囲気で、昨年のセミナーの続き。エネルギーが盛り込まれたロルフィングの再定義についてジェフリーから説明があり、特に異論もなくスムーズに合意された。そして、彼から現象学を応用したエネルギーワークの紹介。観ること(seeing)自体がワークとなる体験実習。ペアを組んで、プラクティショナー役がただ見守り、相方の内在する捻れや傾きなどの固有のパターンが表に現れてくるまで見守る。そこにわずかに介入することで、統合が引き出される。昨日までの私のワークショップと同じ文脈にある内容だ。

エネルギーワークは、下手をすると何の結果も得られない怪しいもので終わってしまう。また、いくら有効な術であっても、ただ足すだけでは統一感のない混ぜ物ワークになってしまう。そうならないのは、ロルフィングの根本方針がしっかりしているからにほかならない。それをまとめたジェフリーがこのセミナーの発起人である意味は大きい。

最終日は、これまでの内容を総括するように、ペアを組んでマッサージテーブル上での実習。

ここで、ちょっとしたいたずら心が芽生え、初顔合わせのトーマスからワークを受けている間、プラクティショナーの意識状態で受けてみることにした。もちろん、トーマスにはちょっと失礼なので内側にそれを秘めたままでやり過ごした。ところが、そのまま何ごともなく終わるはずが、こちらを観察していたサラが、〝ヒロは受け手になっているのに、プラクティショナーモードになっているように見えた〟という、鋭いコメントを発表。こちらの内側の状態が、すっかりバレていた。彼女は、シアトルの大学で鍼灸を教えているというが、感じ取る力はさすがである。まいった。改めてレベルの高い集まりだったことを最後に思い知ったところで、閉会。

ワークショップを終えて

これまで自分なりに工夫し探究してきた方法を紹介し、敬愛する先生たちに喜んでもらえたワークショップは、このうえなく幸せな時間だった。うれしいことに、昨年のセミナーで私のデモを見た後教員の何人かは、イールドワークをトレーニングのクラスで使ってくれているという。今回の会合の成果が次にどんな流れになっていくのか、彼等との再会も含め来年も楽しみである。

初出:ソトコト 2014年11月号(木楽舎)。本文は掲載時のまま、明らかな誤字のみ修正しています。


Sotokoto 2015年10月号

ロルフィング追求記。パート3

ロルファー、今度はカリフォルニアへ!

ロルファーの田畑さんから編集部にメイルが。「サンタクルーズでワークショップを行ってきました」すでに来年に続編も決定していて、かなりの成功だった様子。今回のセッション、仲間たちの反響は?

公式のクラスとして開催

米国コロラド州ボールダーを本拠地とする、ロルファー™養成の教育機関Rolf Institute®※1では、認定後さらにスキルを向上させるためのプログラムが継続して提供されている。

一昨年、Rolf Institute®の教授会で披露した私のセッションに共感し、強い関心を持った同僚に対して、昨年3日間を使って筆者の発展させたイールド・ワーク※2を紹介した。その後このワークに対する関心が徐々に高まり、今回はロルフィング・コミュニティ全体に応募範囲を広げ、継続教育の単位取得を伴う公式のクラスとして開催が決定した。

サンタクルーズへ

今年は、昨年までの開催地アリゾナ州フェニックスからカリフォルニア州サンタクルーズに場所を移す。ここは恩師キャロル・アグネッセンス先生※3のお膝元。リベラルで革新的といわれるこの地は、最寄りのサンノゼ空港から車で約1時間とアクセスもよく、成田からの直行便があるのもうれしい。このサンノゼ空港では、他の米国の空港でよく遭遇する怠慢で感じの悪い入国審査と違って、嫌な気持ちにさせられることもなく、気持ちよく入国できた。この時期はイースター祭と重なっているため、家族連れの観光客も目立つ。

クラス初日

会場は、郊外にあるスブドゥ・センター。自然に囲まれた立地でクラスルームは広くて快適だ。認定後間もない若手から、キャリア30年超えの先輩まで幅広い層のロルファーが全米各地から18名集まった。昨年に引き続き、メアリー・ボンド先生※4も参加されていて、自己紹介で「私は、ヒロの大ファンなの」と付け加え、緊張ぎみの自分を和ませてくれた。

ここで紹介するイールド・ワークと呼んでいる手法には2つの柱がある。1つは施術者側の知覚・意識の向け方を重視すること、2つ目は、培養細胞の原初的な振る舞いに倣う点にある。

まず、施術側の意識の向け方について実際にクライアントにどんな影響が及び、間合いがいかに重要かを示すデモンストレーションから開始する。受け手となってくれたアンもしっかり変化してまずまずの出だし。

ところが、実際の結果を目の当たりにしても、知識での解釈が追いつかないのか、質疑応答は過熱気味。体験が十分に伴わない段階でのディスカッションには実りがないので早く実習に移行したいが、なかなか収拾がつかない。そこへ、メアリー・ボンド先生が「このワークは、例えると、絵の具をキャンバスに投げつけて、それでどんな作品になるかを見る〝アート〟なのよ、それが私の印象」とコメント。すると自然に討論に向かう流れが修正され、すかさず次のデモに進むことができた。身体に広がりを引き出すためのワーク、触れる時間は数秒だが、施術者が意識の向け方を変えるだけで、受け手の呼吸は深く長い周期へとシフトする。それに共振するかのように、クラス全体が次第に落ち着いていくのを感じる。

クラスの流れが脇道に逸れないように、このワークに共感する仲間がサポートしてくれるのは本当にありがたい。

不思議なことに実習の準備中、突然マッサージテーブルが大破。セッティングが甘い状態で人が乗ったために、バキッと台が真っ二つに折れてしまった。けが人はなくほっとしたが、台の持ち主はメアリー・ボンド先生。LAからわざわざドライブして運んだ自分の台なのに「早いこと捨てちゃってね」という、そのこだわりのなさはなんとも清々しい。さすがです。たぶん何かの厄払いだった出来事に違いない。なんとか初日を乗りきった。

Day 2

今日のデモのモデルクライアントに名乗り出てくれたのは、教員でもあるベサニー。一昨年の私のデモを観て、同じく教員でご主人のレアリーと仲良く参加してくれた。

今回のデモは、諸々の状況を考慮して、普段は別々に分けておこなっている2回のセッションの内容を1回分のデモ・セッションで示すことにした。無理な設定ということもあり、残念ながらベサニーとのセッションは会心の出来とはいえなかった。

しかし、参加生同士の実習を観察すると、意外にも全体にいいワークをしていたのが印象的だった。バッチリ決まったデモ・セッションを見せられなくても、これはこれでありなのかもしれない。

Day 3

昨日のデモがあまりぱっとしなかったこともあって、朝の気分はやや低め。クラスが始まる前に、あるキャリアの長いロルファーに、(ちょっと無理して)話しかけたところ、「このワークは私のやること(job)ではないとわかったの!」という正直なコメントが返ってきた。何十年も圧力をしっかりかけて筋膜リリース中心にセッションを組み立ててきた大先輩にとって、ここで習う方法にはかなりの抵抗があってもおかしくはない。万人に効く方法がないのと同じように、万人に適した施術法はない。どのツールを選択するかは、それぞれのロルファーに委ねられている。私も習った技術のうち採用しているもののほうが実際少ない。

さて、気持ちを切り替え、若手のグレンに第6セッションのデモ・セッション。仙骨を自由化し脊柱の連続性を引き出す内容だ。長年肩の不調に悩まされきた彼は、早くからモデルクライアントに立候補してくれていた。

記憶に残っていないような段階で受けたダメージであっても、その痕跡は何らかの形で結合組織に記憶され、皮膚も何かを表現している。明らかに健全な色や触感とは異なる場所を見つけ、そこにわずかでも動きが回復すると全体に影響を与えることができる。このデモでは、皮膚情報を手がかりに、触れた場所と全体がシンクロしてくるのを待つ。見守っている間に、自発的に小さな痙攣のような反応が続き、やがてそれが収まるまで待ちながら、全体が一体となる状態を引き出す。途中、肩関節が比較的大きく再配置される変化も観察された。

身体をゆっくり起こして、歩いてもらうと、彼の口から「すばらしい(incredible)!」という言葉が漏れる。表情は満ち足りている。囚われた状態から、心身が自由になる瞬間は、全体がやや光ったように明るくなり、独特の静けさが全体を包みこむ。この存在状態を味わってもらう時間をしばらくとってから、お互い礼をいってセッションを終えると、自然に周囲から拍手が起こった。後から聞いたのだが、グレンは、この日を「人生で最高の日」と表現したそうである。朝の低めの気分とは一変して充実感とともに3日目を終えることができた。

この日は実習中に教員の一人と有意義なやりとりもあった。「セッションをしているときに、まれにその場を逃げ出したい衝動にかられることがある」という。筆者にも同じ体験があるので、「逃げ出したいと感じた場合、その時その場所を扱うべきタイミングではないのではないか、つまりその場を離れたいというあなたの衝動は正しかったのではないだろうか」と答えた。一般に援助職は、基本的に受け手をできるだけサポートしたいと思っているため、何かを見つけた場合にそれをあえて扱わないことや、予め決められていることをしないことには抵抗があるかもしれない。

しかし、人生には必要なタイミングでその時進めるべきプロセスと進むべき方向性があるとすれば、わかっていてもその時点で扱うべきではない場所とタイミングがあるに違いない。それはきっと施術側の身体感覚を通して感知できるに違いない。

仲間とこうした感覚を共有することで、何となくいままで感じていたり頭で思っていたことが腑に落ちる、貴重な時間だ。

デモ中の田畑さん。このセッションを終えると、自然に周囲から拍手が起こった。
デモ中の田畑さん。このセッションを終えると、自然に周囲から拍手が起こった。

Day 4

最終日は、シアトルの大学で鍼灸を教えているサラがモデルクライアント。ロルフィングで最も特徴的とされる7回目は、口腔や鼻腔空間を扱うが、従来のクラスで紹介される方法よりはるかに繊細なタッチで行うデモ。的確なフィードバックと共に満足のいくセッションに再び拍手が起きる。デモに対して質問も少なく、すんなり実習に入っていく流れは、初日とは明らかに違う。

すべての実習を終え、参加生の身体の状況をチェックする。みな調子はいいとの感想にほっとする。

今回のクラスは、恩師であるキャロル・アグネッセンス先生がコーディネイトを引き受けてくださり、開催中も全面的なアシストのお陰で無事クラスを終えることができた。感謝!

先生の粋な計らいで用意された日本酒で乾杯して閉会。

参加生の多くが、来年この続きのクラスを希望してくれているようで、次回は統合セッションに関する内容にする予定。

最後に、うれしい知らせとして今回参加してくれたグレンとポールが、秋に東京で開催される上級ロルファー認定トレーニング※5に申し込んだという。彼らは、今回のクラスにインスパイアされ、キャロルと私が講師陣として加わることを知って参加を決めたという。日本での彼らとの再会が楽しみである。

集合写真。参加生の多くが、来年この続きのクラスを希望してくれている。
集合写真。参加生の多くが、来年この続きのクラスを希望してくれている。

初出:ソトコト 2015年10月号(木楽舎)。本文は掲載時のまま、明らかな誤字のみ修正しています。


Sotokoto 2016年10月号

ロルフィング追求記。パート4

ロルファー、再びカリフォルニアへ!

ロルファーの田畑さんから編集部にメイルが。「サンタクルーズでワークショップを行ってきました」。クラスも人気で満席となり、さらなる手応えを得た様子。今回のセッション、仲間たちの反響は?

米国コロラド州ボールダーに本部を置く、ロルファー™養成の教育機関『ロルフ・インスティテュート』では、認定後さらにスキルを向上させるためのプログラムが継続的に提供されている。

3年ほど前にエネルギーワーク志向の教員の集まりで、私のセッションをデモンストレーションしたところ、徐々に関心が高まり、一昨年から米国に招かれるようになった。私の発展させた技法※1に共感しているロルファーの一人である、キャシー・コーネルが同インスティテュートの機関誌※2でインタビュー記事を書いてくれた。その中で彼女は、この技法を取り入れることで、「自分のプラクティスの本質が、新しい方向に進化している」とコメントしている。また、ムーブメント教員のメアリー・ボンド※3は、この技法を「アート・オブ・イールド※4」と呼んだうえで、「今の瞬間に完全に心を置き、繰り返し〝全体〟をよく観るための探求」と表現している。こうしたコメントのおかげもあって、今春のクラスも満席となった。

再びサンタクルーズへ

サンノゼ国際空港からの入国は今回信じられないくらいスムーズだった。米国との往き来が多いこともあって、9・11の同時多発テロ以降は大概呼び止められ、2次審査室で嫌な時間を過ごすことが多かったが、今回は何の問題もなく通過。最近のサンタクルーズは、シリコンバレーで働くITピープルが家を建てるケースが増えて、地価がどんどん上がってきているらしい。

今回のハイライト、「間」と「肚」の感覚

この技法は、細胞の原初的なふるまいの性質を利用しているが、施術側の知覚やその存在状態に重きがある。なぜなら、具体的に立ち位置や見るという行為を意識的に扱うことで、変容に必要な場が形成され、身体の内側からの変容を促すことが可能となるからである。「間」や「肚」の感覚は、欧米文化には馴染みがないため、昨年のクラスでは、参加生がこれらの概念を理解するのが難しく、ディスカッションに時間が取られる割に実りがなかった。今回日本に滞在経験のある米国人の視点から「Ma(間)」について書かれたナイスな記事※5をキャシーが発見してくれたので、これを参考文献として配布することにした。

クラス開幕

いつもながら、初日は特別な日で他人同士の初顔合わせから全体が慣れるまでに多少時間が必要だ。全米はもとより、サウジアラビア、カナダ、そして日本など様々な地域から参加者が集まってくれた。日々のプラクティスを休止して、さらに受講料と旅費宿泊費を捻出して参加してくれていること、そしてオーガナイズを請け負ってくれた恩師・キャロル先生※6の期待に応えねばと思うと、否応なしにプレッシャーを感じる。

今回も昨年と会場は同じ、サンタクルーズ郊外にあるスブドゥセンター。

レベル1から再参加してくれるグレン以外はメンバーが全員違うせいか、クラスの雰囲気もだいぶ昨年と異なる。自己紹介の後は、いよいよセッションのデモ。

最初の勇気あるモデル・クライアントとなってくれたのは、ニューヨークでロルフィングに加え、ヨガも教えているマヤ。まず、このワークの土台となる、全体の応答性を高めて、予備的に一体感を引き出すためのステップをゆっくりていねいに示す。最小限の軽いタッチと、受け手との間合いを大切にして、触れずに見守ることで、全体が同期しながらゆらぐ状態を引き出し、受け手側が内側から起こす変化を待つ。

マヤの反応もよく、身体が台に沈んでいく反応が引き出され、次第に呼吸が深くシフトする中、「Wow!」を連発していた。目をキラキラさせながら、「新しいセンセーションと共に身体がまとまった!」との感想。周囲で観ていた参加生は、さして触れてもいないのに、変化していく様を見て、まるで狐につままれたかのようだった。しかし、その後の実習で参加者同士ワークを交換すると、みな変化をしっかり体感していた。

米国人が好むディスカッションの盛り上がりもなく、この流れで、ロルフィング10シリーズの第1から第6セッションまでを行うための実践方法を紹介した。「日本にロルフィングを持ち帰って発展させてくれてありがとう!」とか、「肚の感覚を使うのは初めてだったが、これは使えるね!!」というポジティブなフィードバックが多かった。特に中盤にモデル・クライアントになってくれたローレンからは、「このクラスは人生で最も核心をつく体験の一つだった」といううれしいコメントももらう。

ロルファー、再びカリフォルニアへ!

レベル2へ

昨年のクラスから4名が新たに加わった。ベテランのケリックは、昨年のクラスの後、スピリチュアルな深いセッションを体験したこともあって、このクラスにとても期待しているとの自己紹介に背筋がピンとなる。旧知のサラとキャシーの合流はとても心強い。

朝から驚いたことには、レベル1と2の間の中休みを利用してビーチに泳ぎに行った参加生の2名が溺れかけたという。気がつくと急な流れに乗ってしまったが、なんとか難を免れたらしい。しかし海水を飲むなどして呼吸器系にかかったストレスによって、二人とも朝から辛そうだった。そのうちの一人・智子さんから、デモのクライアントになりたいという申し出があった。ちょうど内臓と頭蓋骨を扱う第7セッションのテーマは、この状況にフィットしている。ワークを進めるにしたがって、口腔内や気道に広がりが回復して、深い呼吸と共に肩や首の緊張も解放されていった。智子さんの楽になった姿を見て、見ている側もほっとしてきたが、何より取り返しのつかない海難事故にならずに済んで、本当によかった。

2日目のマイカへのセッションは、かなり深い内容となり、「こんなセッションが自分のオフィスでできたらいいのに!」と彼女の口から感想が漏れた。その日ホテルに戻ると、下の階が大音量の音楽と共に大いに盛り上がっている。420※7と呼ばれる特別な日が関係しているようで、収まる気配がないので、端っこの静かな部屋に変更してもらい、早めに就寝する。

3日目、かなりの感情の解放を伴う深いデモになり、クライアントになってくれた参加生が、その影響で午後の実習には参加せず、休憩することになった。心配だったが、その後オーガニックな『ダーマス・レストラン』※8で、その参加生がベジーな謎の麺をすすっている姿を見てほっとした。

最終日

ありがたいことに、デモのクライアントになりたいという要望が多く、最後はジャンケンで決めることにした。勝ち残ったのは、元・技術者で日本人のこうせいさん。

最終セッションのゴールは、全身が呼吸を通して同期して一体となるような状態を引き出して、完結すること。「間」を取りながら、介入を続けると、こうせいさんの呼吸は吐きやすく、ゆっくりしたペースに一旦落ち着いた。反応が一段落した後、すぐ次の介入に進むのが通常だが、自分の「肚」を感じてみると、「まだ」と言われているような気がした。そこで深く落ち着いた呼吸をもう少し時間を取って味わってもらうことにした。しばらく見守っていると、普段息がうまく入らない場所に新たに動きがでてきて、一段階呼吸が劇的に深くなったという。その場所とは、かつて彼が気胸を患って医療処置を受けた場所だという。あえて変化を待つための「間」を取ってもらったことが、この変化を引き出し、待つことがいかに大切かを身をもって実感できた、という熱のこもったフィードバックをもらう。

デモの最終段階、軽やかに歩くこうせいさんの表情は生き生きとしていて、全体から生命力が放たれているように見えた。伝わってくるバイブレーションを同じ空間で仲間としばし共有する。満たされた静寂の中で、見守っていた恩師の目が潤んでいるのが見えた。

ワークショップの修了証書を一人一人に手渡し、クラスの締めは純米大吟醸のお酒でみんなで乾杯!

8日間で行ったデモの数は13、どれも集中した意味のある公開セッションだった。結果として、「間」と「肚」、そして受け手の反応を見守って待つことの重要性を示すことができたのは、大きな成果だった。今回もオーガナイズとアシストをしてくれた恩師の惜しみないサポート、そして熱心な参加者のお陰で無事クラスを終えることができた。

しっかり圧力をかける従来のやり方によるロルフィングの価値を認めつつも、施術する側として、そして受ける側としてもしっくりこないというロルファーは、少なからず存在する。繊細なワーク志向のキャシーは、しばらくロルフィングと〝離婚〟していたが、この技法と出会って〝復縁〟することができた、といっていた。中医学でいうところの肺虚証に分類されるタイプは、皮膚への強い圧力にとても敏感であると考えられている。身体の刺激に対する感受性に多様性があるとすれば、今回集まってくれた仲間は、同じ〝種族〟なのかもしれない。

続きを希望する声も多く、来年の夏には、本拠地ボールダーでクラスが予定されている。彼らとの再会と新しい仲間との出会いも楽しみである。

初出:ソトコト 2016年10月号(木楽舎)。本文は掲載時のまま、明らかな誤字のみ修正しています。


Sotokoto 2018年2月号

ロルフィング追求記。パート5 ― 完結編 ―

ロルファー、9年ぶりにボールダーへ!

ロルファーの田畑さんから編集部にメイルが。「ボールダーでデモ・セッションを行ってきました」。久しぶりの訪問と恩師との再会で、大きく得たものがあった様子。変わりゆく体制の中で、田畑さんが考えたことは?

米国コロラド州ボールダーに本部を置く、『ロルフ・インスティテュート』は、創始者アイダ・ロルフ博士の遺志を継ぎ、優れたロルフィング※1の施術者、ロルファー™を生み出すための教育機関である。

新しい理事会の下で、数年前からインスティテュートの運営体制が変わって、ビジネスプランなるものが打ち出され、教育プログラムにも介入が始まった。7月に本部で予定されていた私のクラスが流れてしまったので、2017年はボールダーに呼ばれないのかなあ、と寂しく思っていたところに、教員会議の案内が届いた。年に一度開催されている教育についての話し合いの場に、せっかく日本から出向くからには何か痕跡を残したい。そこで、会議の世話人に、「間」についての私のワークを紹介する機会を設けてほしいとリクエストしてみた。意外にもすんなり要求が通り、90分の枠が与えられた。プレゼン枠はふたつ。演者のひとりは、上級ロルフィング講師のマイケル・サルベソン、私の上級トレーニング※2の先生の一人で、ロルフ博士から指導を受けた後、講師として任命された重鎮である。私はその後にエントリーされていた。

30〜40年のキャリアを持つ重鎮が集う目の前で、プレゼンするという無謀さに、2017年は出席を見送った恩師のキャロル先生もメールで、「あなたは勇敢ね!」とエールを送ってくれた。

保守とリベラル

ロルフィングの実際のやり方を大ざっぱに分けると、圧力をガッツリかけて筋膜を直接的に調整する古典的な流儀を大切にする保守派と、自分に合う技法や他の概念を積極的に取り入れるリベラル派に分かれる。後者はどちらかというと繊細な働きかけを好み、中には保守的流儀が肌に合わないというロルファーも存在する。重鎮の多くは、当然保守派が多く、影響力も強い。この保守とリベラルの考え方の違いは、「ロルフィングとは何か?」という大きな問いとも深く関連している。マイケルが保守代表とすると、私はリベラルの少数派に過ぎない。

日本固有の「間合い」

受け手と施術者の間に、ある位置関係が見出されると、変容を促す場が形成され、受け手の身体が自己調整するプロセスが開始して、身体構造や空間への知覚も変化する。

これは、「どうしたら受け手の内側からの変化を引き出せるか?」という探求を続けるうちに得られた知見で、ガッツリ圧をかける古典的流儀とは対極にある、一切触れないワークである。多くのワークショップでの経験則から、素人同士であっても、適切な間合いさえ見つければ、それだけで変容することがわかってきた。

が、しかし、会議という場で、それをうまく示せるかどうかは別だ。

9年振りのボールダー

成田―デンバー直行便、レンタカーを利用して、ボールダーに到着。そして自分が学んだ旧校舎に参拝。この周辺は、歴史的景観区域として保護されている。そのお陰で毎回ここに来ると、自分がトレーニングしていた当時にタイムスリップする。前回は※3、オバマ氏が大統領に選ばれる直前だった。

ロルファー、9年ぶりにボールダーへ!

会議初日

ディレクターから、新しく導入する配布資料のクラウド上での管理システムと、教育プログラムにおける生徒の評価の変更についての説明。中身より、話と話の間にまったく隙間がないことがやけに気になる。「間」についての重要性をことさら強調したい気分になった。会議後は、ムーブメントの教員※4で会食して意見を交換。

2日目デモ・セッション当日

午前中最初のプレゼンは、マイケル・サルベソンによる、脊柱のマニピュレーション。

短い講義の後、講師のひとりをモデルにしての脊椎調整への詳細なテクニックが矢継ぎ早に紹介される。相互にやり取りする〝セッション〟というより、素手で行う手術という印象だ。

いよいよ自分の出番

デモの前に、まずこれまでの実例をワーク前後の写真をスライドで示す。その中に、今回出席しているレイ・マッコール先生とは旧知のMさんのデータを持ってきた。Mさんは、たまたまこの会議の2か月前にワークショップを受けに来てくれたのだが、2016年に日本で開催された上級トレーニング中にレイ先生からアドバンスト・シリーズを受けた経験がある。まるで、今回のプレゼンのデータを提供するために来てくれたような絶妙なタイミングだった。彼の協力で、ワークを受けた後、数日経過しても変化が続いた結果を写真に残せたので、このワークが一時的な効果ではないことを示すことができた。

そして、デモ・セッション

モデル・クライアントに立候補してくれたのは、以前サンタクルーズでのワークショップに参加してくれたことのあるリサ。最初の状態としては、右股関節と左肋骨下に違和感があるという。マッサージテーブル上のリサをまず自分が居心地よく見守ることができる位置を探し、その場所にとりあえず落ち着く。リサからフィードバックをもらいながら、最初の私の立ち位置を決定する。彼女の右側のある位置にとどまっていると、呼吸や身体の預けやすさに違いが生まれる。部屋の中の空気が落ち着いてくるのを感じつつ、タイミングを見計らって反対側に移動する。そのままその場所から見守っていると、左の肋骨下が狭まっている感じが抜けて広がりが出てくる。プロセスが落ち着いたところで右側に戻り、私の手をリサの右脛付近から浮かせてしっくりくる位置に置く。すると、右股関節が意識されるようになって感覚がでてくると同時にスペースができたという。

マッサージテーブルから下りて歩いてもらうと、股関節の可動域が広がり、違和感も消えているという。また、周囲の空間に対する知覚が広がったという気づきと共に、彼女の表情が明るく、周囲に放射しているのように見えたことが印象的だった。セッションの終わりと共に自然と拍手が起こる。締めくくりとして、今撮ったセッション前後の写真をスクリーンに映す。比較すると明らかにリサの上半身がセッション後リフトされている。わかりやすい変化に、再び拍手が起こった。お礼を込めて最後にリサとハグ。

全体の場もセッションに共振したのか、やわらかい感じになった。上級クラス同期のダフィが、「あなたは勇敢だわ!」といって褒めてくれた。同じ言葉で応援してくれた恩師からも、「あなたのデモは、圧巻だった! という評判が届いています」というメールをもらった。

デモ・セッション中の田畑さん。
デモ・セッション中の田畑さん。

3日目最終日にかけて

その後は、再び新体制についての説明。簡単にいうと、今までより内容を詰め込んで、トレーニング期間も圧縮する方向で話が進んでいる。新理事体制下の運営優先の方向性に強い懸念を感じたので、トレーニングの中身を自分のものとして消化し、体現するためには、しかるべき時間が必要であると訴えてみた。休憩の合間に個人的に話すと、急激な体制の変化に違和感を感じている同僚が少なくないことを知り、少しほっとした。これらのプログラムを採用するかどうかは各国の協会に任されている。

久しぶりのボールダーで仲間たちと。
久しぶりのボールダーで仲間たちと。

帰国前に

今回のボールダー出張最終日、インスティテュートで長きにわたって教鞭を執ったジム・アッシャー先生を訪ねた。彼は、日本でのロルフィングの発展に貢献したひとりだ。特に、日本にロルファーがほとんどいない時期に幾度も来日し、ワークショップを開いて※5くれた。

彼の1993年最初のワークショップに参加したことが、具体的にロルファーを目指す大きなきっかけとなった。彼のお宅には、何度もステイさせてもらい、トレーニング中お世話になった。

この日は偶然にも彼の誕生日で、ケーキを持参して、会議の席で私がデモしたことを報告した。マイケル・サルベソンのデモと私のデモが、全く対照的な内容だったことを告げると、「それは、グッドだ。ロルフ博士も生前、博士のやり方を模倣するのではなく、ロルファーがそれぞれ自分がやりたいようにロルフィングをしてほしい、と望んでいたからね」と話してくれた。自分のやっていることには自信があるものの、果たしてそれがロルフィングか? と聞かれると、どこか歯切れの悪い自分がいた。しかし、ロルフ博士と長く時間を共にした彼の言葉を通して、「それでいいのだ」、と励まされたような気がした。

22年前、会社を辞めて退路を断って訪れたボールダー。その土地で、最初にお世話になった先生にお礼参りしたことが、予想外に私にとって大きな意味を持っていたように思う。ロルフィングのシリーズに終わりがあるように、何かひとつ大きな区切りがついたのだと思う。

初出:ソトコト 2018年2月号(木楽舎)。本文は掲載時のまま、明らかな誤字のみ修正しています。


2019欧州講師ニコラとのコラボレーション
 

論稿

Agneessens, C., & Tahata, H. (2012). Yielding: Engaging touch, presence, and the physiology of wholeness. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 40(1), 10–16.
イールド、タッチ、プレゼンス、細胞・細胞外マトリックスの観点を結びつけた論稿。


Tahata, H. (2012). Case studies with yielding: Application for joint/lordosis involvement. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 40(1), 31–33.
関節や脊柱前弯に関わる事例を通した、イールドの応用報告。


Tahata, H., & Hoff, A. (2014). The experience of working in post-disaster Fukushima. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 42(1), 10–12.
東日本大震災後の福島で、同僚のロルファーとともに行った支援ワークショップとセッションの報告。


Tahata, H. (2014). Case studies with yielding, part 2: Application for octogenarians. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 42(2), 13–16.
80歳代のクライアントに対するイールドの応用事例。


Tahata, H. (2015). [Contribution to “Ask the faculty: Current fascinations and obsessions”]. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 43(1), 5.
施術者の知覚が場の変容をどのように生み出すか、という探究についての短い回答。


Tahata, H., & McConnell, K. (2015). Rolf Movement® faculty perspectives: The art of yield―An interview with Hiroyoshi Tahata. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 43(3), 3–4.
Kathy McConnellによるインタビュー。


Tahata, H. (2018). [Contribution to “Ask the faculty: About feet”]. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 46(1), 4–6.
足を通した接地への信頼、イールドと支持の回復についての症例報告。


Tahata, H. (2018). Working with ma: Further refinement of the yielding approach through time, space, and intersubjectivity. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 46(1), 44–51.
時間・空間・間主観性を通して、イールドのアプローチを「間(ma)」へと展開した論稿。


Tahata, H. (2019). The superficial layer as sensory envelope: New perspectives from the art of yield about the ‘superficial’ sessions of the Rolfing® series. Structure, Function, Integration: Journal of the Dr. Ida Rolf Institute®, 47(2), 37–42.
表層を感覚的な包絡として捉え、細胞科学とイールドの観点から10シリーズの表層セッションを考察した論稿。


Tahata, H. (2020). [Contribution to “Ask the faculty: Start at the beginning with breath”]. Structure, Function, Integration: Journal of the Dr. Ida Rolf Institute®, 48(2), 7–8.
パンデミック下の呼吸と安全感、間(ma)を用いたオンラインセッションについて。


Tahata, H. (2024). Space, ground, and gravity: Tuning our practitioner body to suitable tone and ma sensitivity. Structure, Function, Integration: Journal of the Dr. Ida Rolf Institute®, 52(1), 34–49.
肚を通した内受容感覚、適切なトーン、間(ma)への感受性、共鳴するテンセグリティと臨床事例を扱う論稿。


口頭発表

Working with Ma through Rolfing Structural Integration – New Perspectives of Manual Intervention. 口頭発表、International Conference on Traditional Medicine and Ethnomedical Research(ICTM 2019)


Case Studies of Rolfing Structural Integration Incorporated with the Art of Yield. 田畑浩良・下津浦康裕(M.D.)、口頭発表、European Congress of Integrative Medicine(ECIM 2018)


研究員時代

Tsuji-Takayama K, Tahata H, et al. Interferon-gamma enhances megakaryocyte colony-stimulating activity in murine bone marrow cells. J Interferon Cytokine Res. 1996;16(9):701–8.


Tsuji-Takayama K, Harashima A, Tahata H, et al. IFN-gamma in combination with IL-3 accelerates platelet recovery in mice with 5-fluorouracil-induced marrow aplasia. J Interferon Cytokine Res. 1996;16(6):447–51.


ヒト細胞培養由来の巨核球増強因子に関する研究. 日本生化学会大会(仙台)『生化学』第67巻・第7号(1995年)


US Patent 5,910,303(US5910303A)Agent for promoting the platelet and the leukocyte productions(血小板および白血球の産生促進剤)発明者:Kazue Takayama, Akira Harashima, Tsunetaka Ohta, Noboru Izumi, Hiroyoshi Tahata, Masashi Kurimoto


 

著書

片山洋次郎・田畑浩良・藤本靖(2024)『共鳴するからだ』晶文社
整体・ロルフィング・身体の専門家の3人が、「空間身体学」の視点から、からだと場の共鳴について語った本。
 
 

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